図書館を図書館にするものとは何でしょうか。
本?
建物や空間?
いくら立派な建物の中に素晴らしい書物がたくさん並んでいても、それを利用してくれる人がいなければ何の意味もありません。
映画『デイ・アフター・トゥモロー』は、いかに利用者の存在が大きいかを改めて考えさせられます。
地球温暖化によって突然訪れた氷河期で、世界各地で異常気象が頻発します。
それらの危機を訴え続けていたのがこの物語の主人公・気象学者のジャック(デニス・クエイド)です。
彼のひとり息子のサム(ジェイク・ギレンホール)は、高校生クイズ大会への参加のためにニューヨークにいて、そのニューヨークにも異常気象が発生し、サムらは地下鉄で内陸部へ移動しようとしますが、巨大な高潮が押し寄せ、目の前にあるニューヨーク公共図書館に逃げ込みます。
広大な閲覧室は避難してきた人たちで埋まり、図書館はシェルターとなります。
サムは、浸水した館内の公衆電話でジャックと連絡をとり、ニューヨークに寒波が押し寄せてきていることを知ります。
嵐が吹き荒れ、1秒で10度気温が低下し、氷河期になる。 絶対に図書館から出ないこと、凍死しないために火をおこし、決してそれを絶やさないよう父からアドバイスを受けます。
図書館に避難したことが幸いだったのか、命を守るもの(燃やせるもの)はいくらでもあります。
しかし、図書館を守る司書は当然、本を燃やすことは許せません。
それなら凍死する?
サムら図書館の避難者は、燃やすための選書をします。
そこで活躍したのは、図書館常連のジェレミーでしたが、彼はその後もたびたび書物に対する愛情をみせてくれます。
映画『デイ・アフター・トゥモロー』の図書館シーン
エルサ: What’ve you got there?(その本は?)
ジェレミー: The Guttenburg Bible… it was in the Rare Books Room.(「グーテンベルク聖書」。希少本の書庫にあった。)
エルサ: Think God’s gonna’ save you?(神の助けが?)
ジェレミー: No… I don’t believe in God.(わたしは神を信じていない)
エルサ: You’re holding on to that bible pretty tight.(聖書を抱えてて?)
ジェレミー:I’m protecting it.(守ってる)
[エルザは、図書館の本を火の中に投げ入れるJ.D.をちらっと見て、一瞬考えます。]
ジェレミー: This Bible… is the first book ever printed. It represents… the dawn of the Age of Reason. As far as I’m concerned, the written word is mankind’s greatest achievement.(人類が印刷した最初の本だ。この本が理性の時代の到来を告げた。わたしにとって、書物こそ人類最高の発明だ)
[エルサは軽く鼻を鳴らして笑います。]
ジェレミー: You can laugh… but if Western Civilization is finished… I’m gonna’ save at least one little piece of it.(笑ってもいい。西欧文化が滅びるのならその小さな一片を後世に残したい)
映画『デイ・アフター・トゥモロー』にみる図書館のケーススタディ
ジェレミーは、図書館に避難した人の中で、その立場(キャラクター)が明確にされることがなければ名前さえも呼ばれることがなく、多くの映画評論(評論家によるものから個人ブログまで)で図書館司書と解釈されていますが、劇場パンフレットでは「常連男性」と明かされています。
しかし、そのような誤解は、いかに図書館が利用者によって図書館にしてもらっているかの証明ともいえます。
ジェレミーとのやりとりが豊富に描かれるエルサもまた、ジェレミー同様、物語を通じて彼女の持つ背景や立場、名前も明確にされません。しかし、このふたりのコミュニケーションによってこの映画が図書館映画として成立させられているのです。
時間と空間を越えて歴史を継承することが可能なのは「文字」です。
話した言葉はその場限りですが、文字として記録することで後世に伝えられます。
ヒトの心には、誰でもどこかに何かを「残したい」という気持ちがあると思います。
ジェレミーの言う通り、「書物こそ人類最高の発明」というのは本当ですね。
ニューヨーク公共図書館に避難した人たちは最後、無事にみんな救助されます。
ジェレミーは、「グーテンベルク聖書」を大切そうに抱えたままヘリコプターに乗ります。
「グーテンベルク聖書」は、実際に舞台となったニューヨーク公共図書館に所蔵されている貴重書のひとつです。
映画『デイ・アフター・トゥモロー』にみる図書館用語
希少本(rare book)
需要のある本であるが、古書籍市場でまれにしか入手できない珍しい本のことです。
残存部数の少なさだけで決まるのではなく、需要に対する希少性によって希少本になります。
図書館では希少本はすべて貴重書として取り扱われますが、貴重書は希少でなくてもそれ自体非常に高額であることなどの他の条件を持つものです。
希少本は貴重書とともに、利用よりは保存に重点が置かれ、別置して一般の資料と区別して特別の取り扱いをします。
参照リスト
ローランド・エメリッヒ監督 2004.『デイ・アフター・トゥモロー(The Day After Tomorrow)』(20世紀フォックス)
日本図書館情報学会「図書館情報学用語辞典(第4版)」
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