ケーススタディ038:医学書を片手に病名を所見

 

図書館の利用者からの質問に対し、役立つ情報を提供する参考調査、参考業務である「レファレンス」は、図書館ならではのサービスです。

しかし残念ながら認知度が高いとは言えず、映画に図書館が登場するとき、それらが描かれることはあまりありません。

 

>>ケーススタディ012:ビジネスシーンに応じた情報収集(映画『赤ちゃんはトップレディがお好き』より)

 

映画『デイ・アフター・トゥモロー』では、突然訪れた氷河期でニューヨークで公共図書館に避難者の中に病人が現れ混乱する中、司書が本を利用して病名を所見する場面が描かれます。

 

 

 

球温暖化によって突然訪れた氷河期で、世界各地で異常気象が頻発します。

 

それらの危機を訴え続けていた気象学者のジャック(デニス・クエイド)のひとり息子のサム(ジェイク・ギレンホール)は、ニューヨーク公共図書館に避難しています。

 

ケーススタディ037:燃やす本と残す本の「選書」

 

物語終盤、サムが想いを寄せる大学の同級生のローラ(エミー・ロッサム)が発熱して意識を失い、みんなで彼女の病名を予想して混乱しているシーンがあります。

 

映画『デイ・アフター・トゥモロー』の図書館シーン

 

サム:意識を失ってる。昨夜は熱だけだったのに。

エルサ:顔色が悪いわ。

ルーサー(犬と避難しているホームレスの男性):皆何も食べてないし。

J.D:低体温症だな。

ルーサー:彼女だけ?

 

[サムは頭を抱える]

 

ブライアン:インフルエンザかも。

ジュディス:違う違う。

 

[本を持ったジュヂスが登場]

 

ブライアン:どうして分かる?

ジュディス:燃やす以外にも本は役に立つのよ

もっとほかの症状を言って。

 

サム:高熱とひどい冷や汗。

ジュディス:脈拍は?

 

[エルサがローラの脈をとる]

 

エルサ:結構早い。

ジュディス:けがをして炎症を起こしていない?

エルサ:何日か前に脚にけがをしたと言ってた。詳しくは知らないけど。

 

[サムとブライアンがローラのパンツの裾をめくって脚のケガをみつける]

 

ジュディス:敗血症を起こしていると思う。ショック状態に陥る危険がある。

ルーサー:それはまずい。

ジュディス:(本を読み上げるように)”直ちに多量のペニシリンか抗生物質を投与。”

”さもないと…”

[とまる]

サム:どうなる?

 

 

映画『デイ・アフター・トゥモロー』にみる図書館のケーススタディ

 

医学書を片手に具体的な症状を所見し、病名を言い当てたのは司書のジュディス(シーラ・マッカーシー)です。

 

ジュディスの行為は、図書館業務のレファレンスサービスにあたります。

レファレンスとは、図書館の利用者からの質問に対し、役立つ情報を提供する参考調査、参考業務のことです。

日本では、図書館によって「レファレンス担当」や「レファレンスカウンター」といい、その専門職に対する定訳がなく、あくまでも司書の役割のひとつとされていますが、英語ではその業務を担当する職員を「レファレンスライブラリアン(reference librarian)」と呼び、図書館の花形ポジションとして、図書館のサービス業務の中でもっとも重要な業務とされています。

 

「燃やす以外にも本は役に立つのよ」と、最後まで司書として生きる姿勢を貫こうとするジュディスは、司書の鏡でしょう。

しかし、実際には、図書館員の専門に関わる制約で、図書館がその専門家(ここでは医師)に代わって、医療に関する相談に応じることやアドバイスをすることはありません。
一般図書館におけるレファレンス質問では、資料提供を限度とし、慎重に対応する必要があります。

 

それでも個人的にこの映画の図書館場面が素晴らしいと思うのは、図書館ではタブーとされていることに踏み込んでいることです。

 

本を燃やすこと(ケーススタディ037:燃やす本と残す本の「選書」)も、レファレンスで医学的な所見をすることも、本来なら図書館で司書が絶対にやらない行為ですが、司書が司書としての専門性をきちんと備えたうえでこの場面にいなけれればクリアできなかった問題です。

 

他方で、このシナリオが用意した地球滅亡の危機によって命の危機が迫っていても本当に図書館法や専門に関わる制約が大切かとヒトの気持ちに問いかけてもいます。そして、自分たちの命を守るためにそのタブー領域を犯した中で、書物に対する最大の誠意をみせています。

 

▼書物がなぜ大切なのかを説いてくれるのは図書館の常連男性でした。

ケーススタディ039:本の歴史を継承し図書館を守るのは”利用者”である

 

映画『デイ・アフター・トゥモロー』にみる図書館用語

レファレンスサービス(reference service)

何らかの情報あるいは資料を求めている図書館利用者に対して、図書館員が仲介的立場から、求められている情報あるいは資料を提供ないし提示することによって援助することおよびそれにかかわる諸業務です。

図書館における情報サービスのうち、人的で個別的な援助形式をとるものをいい、図書館利用者に対する利用案内(指導)と情報あるいは資料の提供との二つに大別されます。

 

参照リスト

ローランド・エメリッヒ監督 2004.『デイ・アフター・トゥモロー(The Day After Tomorrow)』(20世紀フォックス)

日本図書館情報学会「図書館情報学用語辞典(第4版)」

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