ケーススタディ030:ホームレスは図書館に住むことができる?(1)

図書館の根深い問題のひとつに「ホームレスの問題」があります。

公共図書館は誰でも入館でき、誰でも利用できる場所なので、ホームレスが図書館を利用すること自体は、当然のことながら問題にはなりえません。

ホームレスが問題になるとしたら、それは、図書館の機能を超越して利用した場合です。

ホームレスというのはその言葉通り「家がない人」であるため、家でやるべきことを図書館で行う、つまり、家の代わりに図書館を利用するとき、それは図書館側にとっても問題となり、他の利用者にとっても迷惑行為となります。

言うまでもなく、それは”ホームレスっぽい”といった見た目の問題ではありません。

よって、図書館を家の代わりになるような使い方をしたときは、利用者がホームレスではなくても問題になります。

映画『きっと忘れない』にみる図書館シーン

映画『きっと忘れない』には、ハーバード大学の主要図書館であるワイドナー記念図書館(Harry Elkins Widener Memorial Library)が2度登場しますが、2回とも、ホームレスであるサイモンが関わっています。

映画『きっと忘れない』にみる図書館シーン1

映画『きっと忘れない』の最初の図書館シーンは、ホームレスの男性が図書館に完全に住みついているところに偶然ハーバード生が遭遇します。

卒業を目前に控え、ハーバード大学4年生の奨学生モンティ(ブレンダン・フレイザー)は、卒論の完成に日夜明け暮れています。

ある夜、寮の自室で卒論の仕上げをしようとしていたところ、パソコンのディスクが破損して書きかけの卒論を消してしまいます。

1部だけ残っているプリントアウトした下書きをコピーするため、雪の中大学へ走りますが、途中石につまずいて転び、卒論が入った封筒を道路の通気口に落としてしまいます。

この通気口は図書館のボイラー室につながっており、モンティはルームメイトの協力を得て閉館後の図書館に入り込み、ボイラー室に向かいます。

ボイラー室に行くと、そこには、そこで生活しているホームレスのサイモン(ジョー・ペシ)がいて、火を起こすためにモンティの論文を燃やそうとしており、間一髪それを阻止します。

モンティは論文を取り返そうとしますが、ホームレスのサイモンは交換条件を出してきます。

これをきっかけにエリート大学生とユニークなホームレスの奇妙な交流が生まれることになります。

映画『きっと忘れない』にみる図書館シーン2

 

サイモンはモンティの卒論を人質に、ことあるごとにモンティに付きまとうようになり、優秀な奨学生であるモンティもまた、この卒論に人生を賭けており、サイモンを無下にすることができません。

ある日、モンティはサイモンを連れて、ハーバード大学のワイドナー記念図書館の中に入ります。

サイモンは、図書館を見渡し、「 」というセリフを口にしており、本当に図書館が大好きで、機会さえあれば、きちんと学びたかった人なのだと思わされます。

そこに、高齢な女性の図書館員がやってきて、一言目に「(利用は)ご遠慮ください。」といいます。

モンティが「卒論のパートナーなので。」とその場を取り持ちます。

映画『きっと忘れない』にみる図書館のケーススタディ

 

最初の図書館場面は、実際に図書館が抱えるホームレス問題を超越しておりまったく現実的ではありませんが、一方で、家のないホームレスは、居場所として図書館に行きがちだというイメージを強調する場面と捉えることもできます。

そして、この後、サイモンがモンティに連れ添われて実際に大学図書館の中に入る場面では、逆に、ホームレスが図書館を家の代わりとして利用するという問題よりも、ホームレス風という見た目で図書館員が利用者を排除するという問題が垣間見えます。

たとえ相手がホームレスであっても、司書がそれだけを理由にこのような態度をとることは許されません。

大学図書館なので、学外者の利用はご遠慮くださいということなのかもしれませんが、それなら、まず入り口で止められるはずなので、「ホームレスっぽい見た目」で判断したことが想像できます。

公共図書館であれば、「ホームレス風」という理由で利用を拒んではならず、仮に他の利用者からのクレームであったとしても、それが排除するような要求だった場合は拒否しなければなりません。

そして、それこそが、図書館にとって難しい課題なのです。

では、図書館はどういった場合に利用を拒否することができるのでしょうか。

『きっと忘れない』でサイモンは、造船所で働いた頃に使用されていたアスベストが原因で肺を患っており、生活保護を受給する対象でしたが頑なに拒み続け、住む場所がなくて図書館(のボイラー室)に違法に住みついています。

サイモンのこのケースは、日本では刑法130条(住居など侵入罪)にあたる犯罪行為です。

図書館に住むという行為に限らず、図書館の利用以外の目的で入館した場合(たとえば、トイレで洗濯をする、冷暖房の設備を求めて館内の閲覧席や部屋で寝ている、飲酒をするなど周囲に迷惑をかけるなど)には、図書館は退館を求めることができます。

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