ケーススタディ026:続・ジャーナリストの調査業務の一端を担う

 

映画『スポットライト 世紀のスクープ』では、「ボストン・グローブ」が社内に所有する企業図書館が登場します。

 

1回目は「ケーススタディ025:ジャーナリストの調査業務の一端を担う」でも書いたように、「これに関連するすべての記事を切り取ってくれないか。」のマットの一言と1枚のメモから、図書館の司書が騒動し、彼女ら(全員女性である)はマイクロフィルム、過去の新聞記事や写真の切り抜き、オンラインデータベースでのキーワード検索など、図書館における資料と調査方法を駆使し、記者が要求した情報をかき集めます。

 

このわずか1分の場面では、積み重なった新聞やマイクロフィルムのコレクションというこの図書館が所蔵する資料が積み重なっている背景が映り、それによってここが新聞社の専門図書館だと認識できるほどの細部へのこだわりもみえ、図書館映画として最高のシチュエーションが提供されています。

 

しかし、マットの要求はメモによって依頼されるので、図書館の機能という視点では、残念ながら具体的に分析することが出来ません。

 

映画『スポットライト 世紀のスクープ』にみる図書館シーン2

 

マットが次に図書館を利用する場面では、図書館の具体的なレファレンスが描かれています。

 

彼は最初、ボストン・グローブのコラムに司祭の虐待事件を取り上げたことがあるアイリーン(モーリーン・キーラー)のところへ行き、司祭が所属した教区の調べ方を尋ねます。

アイリーンから「ゲーガン事件については記事の切り抜きがすべてあるのに。リサ(司書)がすべてのディレクトリを持っているはず。」との情報を得ると、ふたたび図書館に行き、司書のリサも再登場します。

 

この場面では、分厚いカトリック百科事典とマサチューセッツカトリック名鑑のペーパーバックがクローズアップされ、背表紙の請求記号ラベルにはすべて200番代が割り当てられており、デューイ十進分類法の「宗教」に該当することが分かります。(日本十進分類法では「宗教」は160番代)

 

リサ(司書):The Archdiocese puts out an annual directory. Every priest and parish.(大司教区は毎年、すべての司祭と教区が書かれている名鑑を出しています。)

マット:Oh, that’s great. Do these go back any further than ’98?(それは素晴らしい。98年より前の物は?)

リサ(司書):Oh yeah, going back to the ’80s in the mez. Beyond that, you gotta go to the BPL. [Boston Public Library].(80年代のものはメズ*にあって、それ以前のものはBPL(ボストン公立図書館)に行かなければなりません。)

マット:The mez, huh? Thanks, Lisa.(メズ*か。ありがとう、リサ。)

リサ(司書): You bet.(どういたしまして。)

*メズ=メザニンの略で、「中二階」を示す。

 

 

次の場面でマットは、司書のリサに教わったとおり中二階の薄暗い倉庫のようなところにいて、そこにマイクとウォルターが合流し、この場所で得た情報で調査の残りの部分を推進する重要な手がかりを得ることに成功します。

 

映画『スポットライト 世紀のスクープ』にみる図書館のケーススタディ

 

ケーススタディ025:ジャーナリストの調査業務の一端を担う」で書いた、映画『スポットライト 世紀のスクープ』の図書館場面で司書(図書館員)が記者のニーズに応え、記者の要求する資料(情報)を集めることは、一般的な公共の図書館では過剰な手助けになります。

図書館は、利用者が求める資料を探す方法を手助けすることが求められており、要求されるままに資料をかき集めるのが司書の仕事ではないからです。

 

それにもかかわらずこの映画における図書館場面で、こういった司書の行為が素晴らしいと思わされるのは、やはりそれが新聞社の中の専門図書館だからであり、もうひとつ特筆すべき点に、図書館の利用者であるマットの、チーム内での役割があります。

マットは「スポットライト」チームの中で、唯一司書とのやりとりがあり、一方で、ほかの記者が取材に奔走する中、外に出て誰かに取材をするなど、外側に向かって何かを試みることはありません。

映画内で彼の立場が明確に明かされることはありませんが、ボストン・グローブのWEBサイト記事「スポットライト キャラクターの実在の人物」によると、彼は当時、スポットライトのデータベース調査スペシャリストであったといいます。

これを理解すると、彼が社内の図書館を利用し、司書と言葉を交わす唯一の記者であることも、後に隠蔽のパターンに気付くキーワードの着眼点も納得できます。

つまり、チーム内でデータベースを調査するスペシャリストの記者が、「調査」という彼自身の役割に、たびたび図書館に助けを求めていることが分かり、それは、記者と司書の役割分担における信頼関係や相互協力関係が非常にバランスよく、非常に適切にこの会社が機能していることを示す場面だと思います。

 

 

この場面では、やはりデータベース調査スペシャリストのマットが、図書館で得た名鑑から有罪だと分かっている13人の司祭の名前をすべてピックアップし、現在の稼働状況を確認します。

すべての司祭が「病気休暇」、「休暇中」、「割り当てなし」、「緊急対応」、「治療センター」に該当していうことに気付くと、同じ理由で教会によって休暇あるいは移動させられた司祭を追跡するという方法を採用します。

4人の記者がそれぞれ、自分のデスク、社内図書館、ボストン公立図書館、バーなどの公共の場所でディレクトリを1行ずつ手作業で調べるという単調だけど正確性を問われる調査を行うモンタージュがありますが、実際にはこの調査は、司書のリサ・トゥイテ本人によって「教区から別の教区へと司祭を追跡するためにディレクトリを手作業で相互参照した」と、記者と共にその調査に携わったことが明かされています。

 

この調査方法で得た結果をもとに、マットがデータベースを構築し、有罪に当てはまる87名(予測されていた90人にほぼ一致)のリストが作成されます。

 

参考資料

 

Beth McGough.「CSI, Librarian-style: Research Forensics in the News Library」ProProQuest, 2016.1.16

Heather Ciras(Globe Staff).「The real people behind the ‘Spotlight’characters」Boston Globe, 2015.10.28

Tom McCarthy.『Spotlight』, 2015.

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