ケーススタディ037:燃やす本と残す本の「選書」

 

図書館の中の、サービス業ではなく技術的なことを行う業務をテクニカルサービスといいますが、それらの業務の多くは裏(事務所側)で行われているため利用者からはみえにくく、よって、映画にもそれらが描かれるものはなかなか見当たりません。

 

>>ケーススタディ008:書庫の本の”出納”という仕事

 

映画『デイ・アフター・トゥモロー』では、図書館の業務としてではなく、突然訪れた氷河期による災害で図書館がシェルターとなり、そこで図書館の役割が垣間見える場面があります。

 

 

地球温暖化によって突然訪れた氷河期で、世界各地で異常気象が頻発します。

それらの危機を訴え続けていたのがこの物語の主人公・気象学者のジャック(デニス・クエイド)です。

 

彼のひとり息子のサム(ジェイク・ギレンホール)は、高校生クイズ大会への参加のためにニューヨークにいて、そのニューヨークにも異常気象が発生し、サムらは地下鉄で内陸部へ移動しようとしますが、巨大な高潮が押し寄せ、目の前にあるニューヨーク公共図書館に逃げ込みます。

 

広大な閲覧室は避難してきた人たちで埋まり、図書館はシェルターとなります。

 

サムは、浸水した館内の公衆電話でジャックと連絡をとり、ニューヨークに寒波が押し寄せてきていることを知ります。

嵐が吹き荒れ、1秒で10度気温が低下し、氷河期になる。 絶対に図書館から出ないこと、凍死しないために火をおこし、決してそれを絶やさないよう父からアドバイスを受けます。

 

図書館に避難したことが幸いだったのか、命を守るもの(燃やせるもの)はいくらでもあります。

しかし、図書館を守る司書は当然、本を燃やすことは許せません。

 

さて、図書館に避難した人たちはどうしたでしょうか…。

 

映画『デイ・アフター・トゥモロー』の図書館シーン

 

 

 

サムらは司書ジュディスの案内で暖炉のある閲覧室にやってきます。

 

ジュディス:暖炉よ。400年以上使っていないけど。

 

サム:All right.(よし)

 

サムは、机の上の本を無造作に集めて暖炉に放り込みます。

 

 

ジュディス(司書):何てことするの?

サム:燃やすんだ。

ジュディス:本を燃やすですって?

ジェレミー(図書館の常連男性):そんなこと許さない。

サム:じゃ、凍死する?

 

[司書のジュディス図書館の常連であるジェレミーは驚いた表情をみせます。]

 

エルサ(避難女性):もっと本を。

サムの友人:手伝うよ。

ジェレミー:僕も。

 

[とまどう司書のジュディス]

 

サム:ここにカフェテリアはありますか?

ジュディス:職員用の自動販売機が。

 

[サムらは自販機を壊して中の食べ物を取り出す。]

 

場面はふたたび閲覧室へ…

そこでサムらは、ほかの避難者たちと焚書ための本を選書します。

 

ジェレミー:フリードリヒ・ニーチェ…。19世紀の偉大な哲学者の本を燃やすのか?

エルサ:妹に恋するようなイカれた豚が偉大ですって?

ジェレミー:イカれてなどいない。

エルサ:妹に恋してたのに?

 

ブライアン(サムの同級生):ちょっと君たち。

”税法”の本がある。全部燃やそう。

 

セリフの翻訳:筆者による

 

映画『デイ・アフター・トゥモロー』にみる図書館のケーススタディ

 

「選書」とは、図書館に置くための本を選ぶことです。

図書館にある蔵書の充実度、利用頻度、利用者のニーズを考慮し、決められた購入予算で個々の資料を図書館に受け入れるかどうかを決定する作業やその過程のことで、図書館における重要な業務のひとつです。

 

映画『デイ・アフター・トゥモロー』のこの場面では、図書館が行う選書とは逆に、燃やす=残さないための本を選んでいます。

「除籍」といわれるものです。

「除籍」とは、破損や汚損のある資料や、図書館で利用頻度が少なかったり所在不明になっている資料を登録台帳から削除し、各図書館の物品管理規程に従って廃棄、寄贈、売却などの処理をとることです。

 

それでもやはり、このシーンが「選書」だと思わされるのは、命の危機が迫る中、その環境の中で最大限の選択基準を自分たちで設けて選別していることです。

燃やす本を選んでいることは、除籍とその後の廃棄にあたりそうですが、同時に残すための本を選んでいるとも解釈できます。

 

そしてそれができたのは、そこに司書の存在があったことが大きいと思いますが、実はこのシーンで活躍をみせるのは司書のジュディス(シーラ・マッカーシー)よりも、ニューヨーク公共図書館と文学を愛する常連のジェレミーです。

 

>>ケーススタディ039:本の歴史を継承し図書館を守るのは”利用者”である

 

 

この場面での、さまざまな立場にある彼らの書物に対する価値観の相違は、この映画のみどころのひとつです。

 

選書は、資料管理部門の職員の職員によるテクニカルサービスで、その後、「目録作業」、「分類作業」、「装備」と続き、それらの過程を経て、はじめて図書館の目に見えるサービス(パブリックサービス)として利用者に活用されます。

 

テクニカルサービスは、図書館を運営するための基盤として非常に重要な部分ですが、やはり図書館の中の中の仕事として一般的には見えないところに存在しており、残念ながら、それらが描かれる映画は今のところまだありません。

 

映画『デイ・アフター・トゥモロー』にみる図書館用語

 

選書

不特定多数の利用者を想定し、一定の蔵書構成を実現するために収集すべき個別の資料を選択することです。現存蔵書の充実度、利用頻度、利用者のニーズを考慮して個々の資料を図書館に受け入れるかどうかを決定する作業やその過程を指します。

収集方針や年度ごとの重点計画に基づいて行われ、選択基準に従って、個々の資料タイプが図書館の目的に適合するか、資料の有用性と費用対効果はどうか、利用者要求やニーズを充足させるか、資料収集の緊急性と優先順位は適正であるかどうかなどを判断して行われます。

 

除籍

 

図書館で、所在不明であったり、破損、汚損があったり、あるいは不要となった資料を原簿から削除することです。

その図書館の物品管理規程に従った処理が行われます。

除籍された資料に対しては、廃棄、寄贈、売却などの処理がとられます。

 

参照リスト

ローランド・エメリッヒ監督 2004.『デイ・アフター・トゥモロー(The Day After Tomorrow)』(20世紀フォックス)

日本図書館情報学会「図書館情報学用語辞典(第4版)」

 

 

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