ケーススタディ048:未来の図書館の姿② 情報の媒体はメモリープールになります

 

1975年に西暦2018年の近未来を描いたSF映画『ローラーボール』には、本がすべてデータ化され、「情報」だけが残された図書館が登場します。

 

 

2018年、世界はひとつになり、エネルギー、食糧、住居、輸送、通信、娯楽をそれぞれ司る6つの大企業によって社会が支配されています。飢餓や環境汚染、戦争や犯罪はなく表面上は平和が維持され、人口増加も存在しない無機質で不穏な共産主義社会です。

 

主人公のジョナサン(ジェームズ・カーン)は、「ローラーボール」と呼ばれる都市チーム対抗競技のヒューストン・チームに属する花形選手でです。鋼鉄製の鉄球を奪い合い、得点を競うこのゲームは、毎回死傷者が出るほど危険な競技ですが、すっかり退屈となってしまった世界で人々の持つ闘争心のはけ口となっています。

そんな、人々が熱狂する競技界のスーパー・ヒーローであるジョナサンは、次第に、あまりの人気に影響力が政治的な意味を持ち始めたことを恐れる企業の幹部らにその存在を危惧されるようになります。また、ジョナサン自身も豪華な家と高水準な生活が用意されている一方で、妻エラ(モード・アダムス)と離婚させられるなど管理され過ぎていることを不服に感じはじめるのです。

社会に疑問を持ちはじめたジョナサンは、隠された社会システムを探ろうと、図書館を訪れます。

 

『ローラーボール』には、図書館の場面が2回あり、それぞれが別々の場所なので、2つの異なる図書館が登場することになります。

 

最初の図書館シーンは、約2時間ある映画の35分後に登場し、約1分半の短いシーンです。

>>未来の図書館の姿(1) 図書館は情報サービスの一部となります

 

2回目は、映画の1時間半後に登場、ジョナサンは、分館の受付係が言及したジュネーブにある本館に行きます。

先ほどの分館よりも長く、6分半続きます。

 

13世紀の情報をまるごと消してしまったけど、まぁいいか

 

ジョナサンは、図書館の本館で何かを見つけることができると期待しています。

 

ジュネーブの図書館は、外から見ると古典的な建物のように見えますが、内部はコンクリートのような造りに鉄製のドア、複数のコンピューター、蛍光灯など、無機質で寂しい印象を与えます。

 

この外観のために使用された建物は、スイスのジュネーブにある国際連盟です。

ノーマン・ジュイソン監督は、監督の解説トラックで次のように述べています。

「古い建築物にはまだ敬意が払われていることを示したかったので、国際連盟を世界の図書館にすることにしました。」

 

英国の俳優ラルフ・リチャードソンが演じた司書は最初、ジョナサンに会って、スターに会った素人の憧れを表現します。

また、コンピューターの保管場所のように見える図書館員のオフィスも見ることができます。

 

司書: Hello, hello. Yes, it is. The famous Jonathan E. Hard to believe. Sorry things are in a mess. The rollerball champion. Wonderful. Not many people come to see us, you know. We’re not easy to talk to, Zero and I. We’re a little confused again here today. This is embarrassing. It’s embarrassing to misplace things.(どうもどうも。あの有名なジョナサンがここにいるとは信じられないね。偉大なローラーチャンピオンにお会いできて光栄です。わたしとゼロは口下手なので、ここにはあまり人が会いに来ない。今日もまたちょっとしたミスがあって慌てたよ。お恥ずかしい。入れ違いによるものだ。

ジョナサン: Misplaced some data?(データの入れ違いですか?)

司書: Hmmm, the whole of the 13th century. ([頷いて。]13世紀のすべてだ。)

 

 

この司書は手に持っているカードを破り、床に落とし、ジョナサンは不審な目でそれを眺めます。

 

司書: Misplaced the computers, several conventional computers. We can’t find them. We’re always moving things around, getting organized. My assistants and I. But this, this is Zero’s fault. Zero. He’s the world’s file cabinet. Yeah. Pity. Poor old 13th century. (コンピューターが起こすミスだが、どの台か特定するのは難しい。機械は絶えず動いている。私とアシスタント。でも、これはゼロのミスだ。ゼロ、それはファイルキャビネットの名前だ。残念。13世紀、可哀そうに。)

 

ジョナサンはふたたび不信感のある顔をみせます。

 

司書: Well. Come along now. You want to get started, don’t you?(さあ、付いて来て。はじめたいだろう?)

ジョナサン: Yes, sir.(はい)

司書: This way. Now, we’ve lost those computers, with all of the 13th century in them. Not much in the century. Just Dante and a few corrupt popes. But it’s so distracting and annoying. You’ve unlimited restrictions here, of course. But you have to come so, so many times. It all takes such effort.(こっちだ。いずれにしても13世紀の資料は全部なくしたんだ。大した世紀じゃない。ダンテと数人の堕落した教皇だけだ。それでも気が散るし迷惑な話だけど。君にはもちろん制約はないのだから、もっとここへ足を運ぶべきだ。)

 

白衣を着た、いかにも専門家のような司書は、たまたま、データを消しちゃったと、手に負えないミスをカジュアルに言及しました。

 

世界の情報の中枢機関であるジュネーブ本館の司書のこのような姿勢は非常に残念ですが、この司書は、ここから先、ますます感情的に、非常に疲れ切った様子を明らかにしはじめます。

 

 

本、本、本って。本は全部書き換えられたけど、情報はすべてここにある

 

ジョナサン: Do the executives still come here?(幹部らは今もここに来ますか?)司書: Oh, they used to. Some of them.(何人かはね。)

ジョナサン: What about the books?(何の本について?)

司書: Books, books, oh no, they’re all changed, all transcribed. All information is here. We’ve Zero, of course. He’s the central brain, the world’s brain. Fluid mechanics, fluidics. He’s liquid, you see. His borders touch all knowledge. Everything we ask has become so complicated now. Each thing we ask. This morning we wanted to know something about the 13th century. It flows out into all our storage systems. He considers everything. He’s become so ambiguous now. As if he knows nothing at all.(本、本、本って。本は全部書き換えられたが、情報はすべてここにある。もちろんゼロのことだ。彼は脳の中心、つまり、世界の脳だ。流体性の流動的な機械。見ればわかるけど、彼は液体だ。彼にはすべての知識が含まれている。私たちが求めるものはすべて今ではとても複雑になった。我々が求めるそれぞれのこと。今朝は13世紀について知りたいことがあったが、すべてのストレージシステムに流れ出してすべてがダメになってしまった。彼は今、とても曖昧になっています。まるで何も知らないかのように)

ジョナサン: Could you tell me something about the corporate wars?(企業戦争について何か教えてもらえませんか?)

司書: Wars? War? Oh, yes, of course. We have them all here. Punic War. Prussian War. Peloponnesian War. Crimean War. War of the Roses. We could recall them in sequence. But corporate wars… hmmm. Well, Zero will, or can, I’m sure, tell you anything.(せ、戦争?あぁ、もちろん。全部ここにあるよ。プロニ戦争。プロシア戦争。クリミア戦争、バラ戦争。全部そろっているけど、企業戦争…うーん、ゼロならできる。確かに何でもあなたに話すよ。)

司書: A memory pool, you see. He’s supposed to tell us where things are and what they might possibly mean. Look, Zero, a visitor. (メモリープールだ。どこになにがあって何を意味するのか答えてくれる。)

司書: (ゼロに向かって)Jonathan E., the rollerball champion. You’ve filed away a lot of data on him. Do you remember?(ジョナサン、ローラーボールのチャンピオンだ。彼のデータはいろいろ扱っただろう。覚えているか?)

ジョナサン: Does it answer you?(これが返事を?)

司書: Oh yes, it speaks. It finds things, and loses them, and confuses itself. [Dusts it.] Ask anything. He’ll find it for you, section and lot. Won’t you, Zero?(そうだ、これが話すよ。探したり忘れたり、混乱したりもするけど。彼に聞けば、何でも答えてくれる。そうだろ、ゼロ)

ジョナサン: All right. I’d like, uh, I’d like some information about corporate decisions: how they’re made and who makes them.(それじゃやってみます。会社の方針決定についての情報を教えてほしいのですが、どうやって決めているのですか?)

 

メモリープール「ゼロ」は図書館になりえるか

 

司書: Zero, you heard the question. Answer him.(ゼロ、質問が聞こえただろう。彼に答えてあげなさい。)

Zero: Negative.(拒否)

司書: You don’t have to give him a full political briefing. Answer.(政策のすべてを説明する必要はない。答えろ。)

Zero: Negative.(拒否)

司書: This is Jonathan E. He has to know. Make it simple. Answer.(こちらはジョナサンだ。彼は知る必要なんだ。簡単に答えろ。)

 

当初、司書の姿勢は、甘やかされて育った子どもをいなす親のように、愛情を込めて保護者のような態度でゼロに対処します。

やがて、ゼロが要求された情報を提供することを拒否していることに気付いた司書は情緒が乱れはじめます。

 

Zero: Corporate decisions are made by corporate executives. Corporate executives make corporate decisions.(会社の方針は重役が考え、重役が採用を決定する。)

司書: I know we have the answers.(それはわかっている。)

Zero: Knowledge converts to power. (知識は力へ)

司書: It’s the waters of history.(それは水の歴史だ。)

Zero: Energy equals genius. Power is knowledge. Genius is energy.Corporate entities control…(エネルギーは適正に等しい。力は知識。天才はエネルギー。この要素を会社は管理。)

司書: I don’t want to bully you. You have to answer!(わたしはいじわるをしたくない、答えろ。)

Zero: elements of economic life, technology, capitol, labors, and markets. Corporate decisions are made by…(経済声明、高度技術、資本と労働力、市場と会社方針)

司書: You have to, Zero! [kicks the base] Let’s show him! Answer him!(やれ、ゼロ![機械を蹴る]彼に提示しろ、答えろ!)

Zero: Negative. Negative. Negative. Negative. Negative. Negative. Negative.(拒否拒否拒否)

 

媒体としての情報がメモリープール化されたことを自慢げに話していた司書が、最終的にゼロを蹴るという行為をみせることによって、ジョナサンに限らず、この企業化された世界で人間がどれほど無力であるかを理解することになります。

 

司書は情報教育を受け、知的であり、依然として価値のある知識を持っていますが、それもこのような社会では役には立ちません。

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