ケーススタディ047:未来の図書館の姿① 図書館は情報サービスの一部となります

 

資本主義を突き詰めた結果、国家が意味をなさなくなり、6つの超巨大企業によって牛耳られた世界が描かれた『ローラーボール』には、紙の本が一切ない、「情報」だけが残された図書館が登場します。

 

1975年に西暦2018年の近未来を描いたSF映画では、どんな図書館が想像されていたのでしょうか。

 

ノーマン・ジュイソン監督自身が図書館場面の重要性を説いているように、非常に興味深い描かれ方をされています。

 

図書館は「娯楽センター」の中にあります

 

2018年、世界はひとつになり、エネルギー、食糧、住居、輸送、通信、娯楽をそれぞれ司る6つの大企業によって社会が支配されています。

飢餓や環境汚染、戦争や犯罪はなく表面上は平和が維持され、人口増加も存在しない無機質で不穏な共産主義社会です。

 

主人公のジョナサンは、「ローラーボール」と呼ばれる都市チーム対抗競技のヒューストン・チームに属する花形選手です。

鋼鉄製の鉄球を奪い合い得点を競うこのゲームは、毎回死傷者が出るほど危険な競技ですが、すっかり退屈となってしまった世界で人々の持つ闘争心のはけ口となっています。

 

ある日の試合直後、社長に呼び出されたジョナサンは引退を勧められますが、彼自身もその理由が分からないことに加え、妻エラ(モード・アダムス)と離婚させられるなど、かねてより不服だった私生活への過剰な管理に反発しはじめます。そして、自身への管理体制が敷かれた社会システムを調べるため図書館を訪れます。

 

最初の図書館シーンは、約2時間ある映画の35分後に登場します。

たった1分半の短いシーンです。

 

ジョナサンは最初、友人でチームメイトのムーンパイ(ジョン・ベック)と一緒に、「娯楽センター」と呼ばれる場所を訪れます。

その空間は、エスカレーターのある近未来的なモールのような場所で(この場所はドイツにあり、オリンピックのために特別に建てられた建物です。)、一般的な図書館のイメージとは異なり、「図書館」や「旅行」など案内板によって区分されたさまざまなインフォメーションデスクがあるようなところです。

この場面からは、この映画の時代背景では、「図書館」は、数多くあるサービス業の単なるひとつにすぎないということがわかります。

まるで、情報のショッピングモールみたいなイメージです。

 

ジョナサンは、「Library」のプレートがぶら下がったカウンターに座るひとりの女性と会話をしますが、ナンシー・ブレイアー演じるこの女性は、エンディングのキャストで「Girl in Library(図書館の女の子)」とクレジットされていることから、一般的な図書館でいう閲覧デスク、レファレンスなどの受付カウンターにいるスタッフだと分析できます。

 

図書館の女の子:Can I help you, please?(何かお探しですか?)

ジョナサン:Yeah.I tried to order some books. They sent me this notice that I had to appear at the center personally.(本を予約したのですが、これをここへ持ってくるように言われて。)

図書館の女の子:That’s right. This is our circulation unit. You can make your choice here or by catalog. There must be some mistake. The books you’ve ordered are classified and have been transcribed and summarized.(そうですね。ご希望の資料はこちらでお渡しします。ここか、目録で選ぶことが出来ます。)

 

彼女がコンピューターに何かを入力すると、コンピューターからセキュリティ音が鳴る。

 

図書館の女の子:(おかしいですね。あなたが予約した資料は改訂され絶版になっています。)ジョナサン: Who summarized them?(誰がそんなことを?)

図書館の女の子:I suppose the computer summarized them.(コンピューターだと思います。)

ムーンパイ:What do you need books for?(なぜ本を?)

ジョナサン: I just want to study up on somethings.(確認したいことがある。)

図書館の女の子:You could go to the computer center where the real librarians transcribe the books, but we have all the edited versions in our catalog, anything I think you’d want.(経緯を知っている本物の図書館員がいるコンピューターセンターに行くこともできますよ。)

ジョナサン: Well, let’s see then. This is not a library, and you’re really not a librarian.(では、それを見てみましょう。ここは図書館ではなく、あなたも実際には図書館員ではないということですね。)

図書館の女の子:I’m only a clerk, that’s right. I’m sorry about it, really.(わたしは単なる受付です。確かに。申し訳ございません。)

 

図書館の女の子は、表情のない空虚な満面の笑顔をみせます。

 

ジョナサン: And the books are really in computer banks being summarized. Where is that?(そして、そのコンピューターセンターとはどこですか?)

図書館の女の子:There’s a computer bank in Washington. The biggest is in Geneva. That’s a nice place to visit. I guess that’s where all the books are now.(ワシントンにコンピューター銀行があります。最大のものはジュネーブにあります。それは訪問するのに良い場所です。私はそれがすべての本が今あるところだと思います。)

ジョナサン: Thank you.

 

この場面は、「何かが正しくない」というジョナサンの疑惑が確信に変わる極めて重要なシーンで、このあとジュネーブで本物の司書に会い、本を確認する動機を与えます。

 

ノーマン・ジュイソン監督は、DVD特典の解説で、図書館のシーンとその重要性を説いています。
そして、脚本家のウィリアム・ハリソンも、ジョナサンとムーンパイが図書館から出て行くときの場面で、このテーマを念押ししています。

 

ムーンパイ: Yeah, but why books? I mean, anything you’d want to know, you could hire yourself a corporate teacher. Call somebody up. Use your privilege card.(でもなぜ本なの?つまり、知りたいことは何でも企業の先生を雇うことができるだろう。君ならいくらでも特権を使える。)

ジョナサン:I can’t, and that’s just it. I feel like there’s something going on. Somebody’s pushing me.(できない。何かが起こっているような気がするんだ。誰かがどこかで圧力をかけている。)

 

娯楽センターは図書館の地域分館なのか?

 

この図書館がどういった図書館なのか、今一度整理し、分析してみます。

 

まず、この映画の背景が、国がひとつに統合された世界を描いており、国はなくなったけれども、東京、ワシントンなどの都市は残っているようです。

図書館には、国立・都道府県立、市町村立、それぞれの分館などがあるので、女の子のセリフにある「ワシントンにコンピューター銀行(computer bank)があります。」というのは、すべてがシステム化された世界で、すべての情報が格納されたデータベース庫のようなところがあるのかなと推測します。

 

そして、その後の「最大のものはジュネーブにあります。」というのは、現代で言うところの国会図書館にあたるのかなと思います。

「それがすべての本が今あるところだと思います」というセリフも、国会図書館のすべての出版物を所蔵するという機能を果たしていると思います。

 

では、ジョナサンがムーンパイを連れ立って訪れた場所は何なのでしょう。

ヒューストンに属する彼らはの最も近い図書館を最初に訪問したと思われ、彼らは「娯楽センター」と呼ぶこの図書館は、現代でいうところの市町村立図書館または地域分館のようなところなのかなと推測します。

 

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

PAGE TOP