ケーススタディ002:労働者階級の少年を差別する高慢な司書

映画のキャプチャ画像©2019 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved

 

イギリスの名匠、ケン・ローチ監督の初期の名作『ケス』では、ホスピタリティ精神のかけらもない傲慢な司書が登場します。

 

 

 

ある日、荒廃した建物から飛び立つハヤブサをみかけたビリーは、その建物の所有者の男性に「ひなを育てて訓練したいな」と話します。男性は「難しいよ。育て方を間違えると危険だ」と止めるのですが、「やり方について調べる」と食い下がるビリーに、「図書館ならそういった関係の本があるよ」と教えてくれました。

 

ビリーは早速、公共図書館に行きますが、入口の受付で若い司書の女性(ゾエ・サザーランド)に止められます。

 

労働者階級の少年を差別する高慢な司書

 

ビリーと司書の図書館での会話をみてみましょう。

 

女性司書:Hey, are you a member?(映像字幕:会員なの?)

ビリー:What do you mean?(何?)

女性司書:Are you a member of the library?(図書館の会員なの?)

ビリー:I don’t know about that. I only want a book on falconry, that’s all.(タカの訓練の本をみるだけだ。)

女性司書:Well, you have to be a member, to take a book out.(貸出は会員に限るの)

ビリー:But I only want one.(1冊だけだ)

女性司書:Well, have you filled one of these forms in?(これに記入したことは?)

 

彼女は、机越しに用紙をみせ、ビリーは時間をかけてじっくりそれをみる。

 

ビリー:No.(ない)

女性司書:Well, you’re not a member then. You’ll have to take one of these home first, for your father to sign.(会員じゃないわね。これにお父さんの署名を…)

ビリー:My dad’s away.(いない)

女性司書:Well, you can wait ‘til he comes back home, can’t you?(帰宅を待てば?)

ビリー:I don’t mean that, I mean, he’s left home.(蒸発したんだ)

女性司書:Oh, I see. Well in that case, your mother will have to sign it for you.(お母さんの署名でいいわ)

ビリー:Aye, but she’s at work and she’ll not be home ‘til tea time and it’s Sunday tomorrow.(夕方まで仕事なんだ。明日は日曜だし…)

女性司書:There’s no rush, is there?(急がないでしょ)

ビリー: I’ve never broke a book, you know. I haven’t torn it or–(破いたりしないから…)

女性司書:Well, look at your hands, they’re absolutely filthy! We’ll end up with dirty books that way.(汚い手ね。本が汚れて不潔になるわ)

ビリー:I don’t read dirty books!(不潔な本は読まない)

女性司書:I should hope you don’t read dirty books, you’re not old enough to read dirty books!(当然よ。そんな本 まだ早いわ)

ビリー:My mum knows one of the people who works here … that’ll help, won’t it?(母さんの知人がここで働いているけど)

女性司書: No, that doesn’t help at all, you’ll still have to have the back signed. To be a member you’ll have to have somebody, over 21, who is on the Borough electoral roll, to sign it for you.(ダメ 署名する決まりなの。21歳以上の選挙権を持つ人の署名がいるのよ)

ビリー:Ah well, I’m over 21 …(もう21だ)

女性司書:You’re not over 21.(嘘はダメ)

ビリー:But I vote.(でも投票してる)

女性司書:You don’t vote!(嘘よ)

ビリー:I do! I vote for my mum. She doesn’t like voting so I do it.(本当さ。母さんは投票嫌いで僕が…)

女性司書:You’ll just have to wait for it, won’t you?(署名してもらって)

ビリー:Where would I find a book, then? In a shop, like?(他に本がある所はどこ)

女性司書:Well you’d have to go down the street, there’s a second hand bookshop there. You’ll find some down there.(通りに沿っていくと古本屋があるわ)

 

図書館のシーンはだいたい1分15秒ほど。

その後、この図書館員に教えてもらった古本屋で盗んだ本で育て方を勉強したビリーは、ハヤブサの巣からヒナを持ち帰り、懐かないと言われるその鳥を調教しはじめます。

 

ハヤブサに「ケス」と名前をつけると、彼は夢中になって育てはじめ、やがてそれが毎日の楽しみとなります。

 

映画『ケス』にみるケーススタディ

 

日々、理不尽で辛辣な扱いを受ける少年ビリーですが、ここでもおそらく労働者階級という理由で図書館に入れてもらえないというひどい対応をされます。

 

最初にみたとき、この時代の図書館はこの司書のいうとおり会員制なのかと思ったのですが、ひっきりなしにやってくる利用者に対し会員証の確認はしていないし、この司書もはっきりと「貸出するには会員になる必要がある。(you have to be a member, to take a book out.)」と言っており、少なくともビリーは入館はできたはずです。

 

あきらかにビリーは、彼女が対処したい利用者の種類ではなかったから入れてもらえなかったといえます。

 

この短い図書館シーンでは、図書館員の奉仕や思いやりの前向きなイメージは提供されず、とても残念です。

 

 

一方のビリーは、あらゆるところでどんなひどい扱いを受けてもいつもケロッとしています。

思い詰めることも環境を嘆くこともなく、ただ日々やるべきことをこなします。

そのようなビリーの性格は、イギリスの貧困の現実を一切のユーモアも批判もなく、ただ淡々と描写に徹するケン・ローチ監督の作品スタイルそのものです。

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