ケーススタディ014:図書館を通じて相手の読書傾向を知る

 

スタジオジブリの人気作『耳をすませば』では、図書館の貸出カードに書かれたあるひとりの名前を主人公の月島雫が気にするところから物語が展開していきます。

 

 

さすがジブリ作品だけに、図書館の閲覧室、雰囲気、また雫の机の上やお父さんの部屋に無造作に積み上げられた本も実にリアルに描かれています。

 

また、物語の中に図書館が登場する場面は印象深いシーンが多く、丹念に作られた愛すべき図書館映画です。

 

その印象的なシーンのひとつに、雫が、図書館から借りてきた本の貸出カードにいつも「天沢聖司」の名前があることに気が付き、自分がこれから読もうとしている本をすべて先に借りて読んでいる彼のことを意識しはじめる、という場面があります。

 

雫:天沢聖司… どんな人だろう。ステキな人かしら…

 

その後、学校の図書室で借りた本の表紙裏に「天沢」の蔵書印を見つけ、それをきっかけに天沢聖司が同じ学校の同級生だということがわかります。

 

ふたりは瞬く間に仲良くなり、バイオリン職人になる夢を持つ聖司に刺激を受け、雫は物語を書くようになるのです。

 

一見、読書好きなふたりが運命的に出会ったように思えますが、実際には、聖司が雫の好みそうな本をすべて先に借りて貸出カードに名前を残し、自身の存在を雫にアピールしていたことがわかります。

 

映画『耳をすませば』にみる図書館のケーススタディ

 

雫と聖司が知り合うきっかけとなった図書館の本。

『耳をすませば』のようなピュアな青春映画であれば、ロマンチックに捉えられるかもしれませんが、冷静に考えたらちょっと恐ろしいことです。

 

この場面ではふたりそれぞれの視点から分析・考察します。

この記事では、天沢聖司の視点です。

 

▼雫の視点はこちら

ケーススタディ013:図書館の貸出カードで他人の貸出履歴をチェック

 

図書館を通じて相手の読書傾向を知る

 

主人公の雫は、ある日、図書館で借りてきた貸出カードにいつも「天沢聖司」の名前があることに気が付き、どのような人なのか思いを馳せます。

 

これはまさに、天沢聖司の作戦通り。

 

聖司:俺、お前より先に、図書カードに名前書くため、ずいぶん本、読んだんだからな。

 

聖司が、雫よりも先回りして自分の名前を残していたことがわかります。

 

とはいえ、聖司は別に、自分の名前を印象づけることだけを目的にこのような作戦に打って出たわけではなく、雫が読みそうな本を先回りして実際に読んでいたことがわかります。

 

きっと、雫のことが気になっていたのだろうとは思いますが、読書好きが一方的に負けず嫌い精神を発揮させただけ…とも解釈できます。

 

しかし、相手が好みそうな本を先回りして読むという、相手の嗜好を把握すること(しかも、聖司はこの点で相違なく成功させています)はどうなのでしょう。

 

図書館の自由に関する宣言には「思想」という言葉が何度も出てきます。

 

「思想」とは、心に思い浮かんだことや考えであり、名前のように明確な個人情報ではありませんが、生活や行動を支配するものの見方であり、その人という人物像をあらわすものになります。

 

図書館は、そのような思想の検閲を禁止しています。

天沢聖司が図書館のツールを使って、それが出来てしまったことはやはり問題です。

 

 

また、ケーススタディ013:図書館の貸出カードで他人の貸出履歴をチェックでは、積極的ではないものの、雫が貸出カードからたまたま目に入った「天沢聖司」の存在を知るという、図書館の貸出カードで個人情報を知ってしまう問題について書きましたが、雫に限らず、聖司も貸出カードで雫の存在に気が付いていました。

 

 

聖司:俺、図書カードで、ずーっと前から、雫に気がついてたんだ。
図書館で何度もすれ違ったの、知らないだろう。
となりの席に座ったこともあるんだぞ。

 

やはり、『耳をすませば』は、図書館のニューアーク方式(過去の利用者の記録が残る記名式の貸出方法)がなければストーリーそのものが成立しません。

 

図書館情報学の授業で、この映画を見せた後に学生に意見を求めたところ、多くの学生が

 

幼い恋心をはぐくむ機能を発揮したこの記名式の貸出方法への憧れを口にしたのだそうです。(*1)

 

 

自分を極力危険から守るという意識よりも、こういったドラマチックな人との繋がりを求める気持ちのほうが強いのかもしれませんね。

 

 

また、誤った取り上げ方をされてはいるものの、それによってこの映画がないものになっていた可能性を考えると、それはとても残念なことです。

それぞれの図書館が、もっと自分たちのことを知ってもらうための努力が必要だということも考えさせられます。

 

【参考文献】
*1:「」『』

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